見えない損失「プレゼンティーイズム」が組織を蝕んでいます
従業員が出社しているにもかかわらず、心身の不調により本来のパフォーマンスを発揮できない状態を「プレゼンティーイズム」と呼びます。
欠勤や休職といった目に見える問題とは異なり、この状態は一見すると通常勤務しているように見えるため、経営者や人事担当者が見逃しやすい深刻なリスクです。
近年の研究では、プレゼンティーイズムによる生産性損失は、欠勤による損失の数倍にも及ぶことが明らかになっています。
従業員が職場にいながら十分に機能していない状態は、企業の収益に直接的な影響を与えるだけでなく、組織全体の士気や業務品質にも悪影響を及ぼします。
プレゼンティーイズムがもたらす3つの重大なリスク
プレゼンティーイズムは、さまざまなリスクをもたらします。
第一に、生産性の低下による直接的な経済損失です。
ある調査によると、健康問題を抱えながら働く従業員の生産性は、通常時の50%から70%程度まで低下することが報告されています。これは単に作業速度が遅くなるだけでなく、判断ミスや品質の低下も含まれます。
第二に、ミスや事故のリスク増加です。
集中力や判断力が低下した状態での業務は、重大なミスや事故につながる可能性があります。
特に製造業や医療現場、運輸業などでは、一つのミスが大きな損失や安全問題を引き起こしかねません。
このようなリスクは、金銭的損失だけでなく、企業の信用やブランドイメージにも深刻な影響を与えます。
第三に、職場環境全体への悪影響です。
不調を抱えた従業員が無理をして働き続けることで、チーム全体の雰囲気が悪化し、他の従業員のモチベーション低下を招きます。さらに、その状態が放置されると、最終的には離職や長期休職につながり、採用コストや教育コストの増大という新たな損失を生み出します。
メンタルヘルス不調がプレゼンティーイズムの大きな要因
プレゼンティーイズムの原因は様々ですが、中でもメンタルヘルス不調が大きな要因となっています。
ストレス、不安、抑うつ状態などは、身体的な症状以上に認知機能や集中力に影響を与えます。
厚生労働省の調査でも、精神疾患による労働損失の大部分がプレゼンティーイズムによるものであることが示されています。
特に日本の職場文化では、メンタルヘルスの問題を抱えていても「休めない」「弱音を吐けない」という雰囲気があり、不調を感じながらも出社し続ける従業員が少なくありません。
この状況は、問題をさらに悪化させ、最終的にはより深刻な休職や離職につながる悪循環を生み出します。
効果的なメンタルヘルス対策が損失を防ぐ
プレゼンティーイズムによる損失を防ぐためには、予防的かつ継続的なメンタルヘルス対策が不可欠です。
まず重要なのは、早期発見と早期対応の仕組みづくりです。
定期的なストレスチェックの実施、上司による日常的な声かけ、産業医や保健師との連携体制を整えることで、従業員の不調を早期に察知し、適切なサポートを提供できます。
次に、相談しやすい環境の整備が求められます。メンタルヘルスに関する相談窓口の設置、外部のカウンセリングサービスの導入、匿名での相談が可能な仕組みなど、従業員が気軽に支援を求められる体制を構築することが重要です。
また、管理職に対するメンタルヘルス研修を実施し、部下の変化に気づき適切に対応できるスキルを身につけてもらうことも効果的です。
さらに、働き方の柔軟性を高めることも有効な対策となります。
テレワークの活用、フレックスタイム制度の導入、休暇取得の促進など、従業員が自身の状態に応じて働き方を調整できる環境を整えることで、無理な出社による生産性低下を防ぐことができます。
投資対効果の高いメンタルヘルス対策
メンタルヘルス対策は単なるコストではなく、生産性向上への投資です。
海外の研究では、メンタルヘルスプログラムへの1ドルの投資に対して、4ドルから6ドルの経済的リターンがあることが報告されています。
これは、プレゼンティーイズムの減少、欠勤率の低下、離職率の改善、生産性の向上といった複合的な効果によるものです。
また、従業員の心身の健康を重視する企業姿勢は、優秀な人材の獲得や定着にもつながります。
働きやすい職場環境を提供することは、企業の競争力を高める重要な要素となっているのです。
今日から始められる具体的なアクション
まず現状を把握することから始めましょう。
従業員のストレス状況や健康状態を定期的にモニタリングし、プレゼンティーイズムの兆候を早期に発見する体制を整えてください。その上で、組織の規模や特性に応じた適切なメンタルヘルス支援策を段階的に導入していくことが重要です。
プレゼンティーイズムという見えない損失に目を向け、従業員のメンタルヘルスを守ることは、持続可能な企業成長のための必須課題です。
