職場カウンセリング導入、4つの効果

相談窓口とカウンセリング窓口の違い

「うちにはすでにハラスメント相談窓口があるから、メンタルヘルス対策はできている」——そうお考えの方は、少なくありません。

しかし、法律で設置が義務付けられている「相談窓口」と、企業が自主的に設ける「カウンセリング窓口」は、目的も担い手も役割もまったく異なるのです。

まず整理しておきたいのが、法律で設置が義務付けられている相談窓口です。代表的なものは次の2つです。

 

・ハラスメント相談窓口(パワハラ防止法により、2022年4月から全企業に設置義務)

・公益通報(内部通報)窓口(改正公益通報者保護法により、従業員301人以上の事業者に設置義務。300人以下は努力義務)

 

これらの窓口の主な役割は、ハラスメント事案や法令違反の申告を受け付け、事実確認や適切な処理につなげること。いわば「コンプライアンス確保と事案対応」のための機能です。担い手は人事担当者や法務、外部の相談員などで、必ずしも心理の専門家とは限りません。

 

一方、カウンセリング窓口は、公認心理師・臨床心理士・産業カウンセラーといった心理の有資格者が対応する、「心のケアと予防」のための窓口です。法的な設置義務はありませんが、従業員のメンタルヘルス向上や早期予防を目的に、多くの企業が自主的に導入しています。

 

ここで強調しておきたいのは、両者は補完関係にあるということです。ハラスメント窓口は「起きてしまった事案への対応」が中心ですが、カウンセリング窓口は「不調に至る前の予防」や「日常的なモヤモヤの整理」まで含めて扱います。コンプライアンス窓口だけでは、従業員のメンタルヘルスは守りきれないのです。では、カウンセリング窓口とは具体的にどのようなものなのでしょうか。順にご説明していきます。

そもそもカウンセリングとは?

カウンセリングは、資格を保有するカウンセラーが、従業員のメンタルヘルスやキャリアに関する相談を受ける仕組みのことです。仕事の悩み、職場の人間関係、働き方——テーマは実にさまざま。対面、メール、電話に加え、テレワークの定着を背景に、最近はオンラインでのセッションも一般的になってきました。

 

1回のセッションは30~50分ほど。来談者中心療法、認知行動療法、解決志向アプローチなど、相談内容やご本人の状況に応じて複数の手法を組み合わせて進めます。1回で終結するケースもあれば、継続してサポートするケースもあります。

 

職場カウンセリングは、クリニックや民間のカウンセリングルームで行うカウンセリングとは、目的が少し異なります。後者が「相談者本人の健康回復や生きづらさの解消」を目的とするのに対し、職場カウンセリングは「健康増進に加え、職場により適応して働けるようになること」を目指します。もちろん、必要に応じて医療機関や外部リソースへのリファー(紹介)も行います。

 

また、産業医とも役割が異なります。産業医は健康管理や医学的判断を担う立場。一方、カウンセラーは「話を聴く」「気持ちを整理する」「問題解決を一緒に考える」という心理的サポートを専門としています。


導入がもたらす、4つの効果

職場にカウンセリングを導入すると、組織にはさまざまな変化が生まれます。私がこれまで多くの企業の導入に立ち会ってきた中で、特に手応えを感じているのは次の4点です。

 

1つ目は、従業員の心身の健康向上です。対話を通じて抱えていた問題の糸口が見えたり、気持ちが軽くなったりするだけでなく、健康習慣や仕事のスキルに関するアドバイスも行うため、自分を見つめ直しブラッシュアップする機会にもなります。

 

2つ目は、メンタルヘルス不調の早期発見・早期対応です。相談を希望する方だけでなく、疲労が蓄積している方に受けていただくことで、不調の兆しを早い段階でキャッチできます。また、従業員全員を対象とした「ショートカウンセリング(心の健康診断)」を実施すれば、スクリーニングとしての機能も果たせます。さらに副次的な効果として、職場に潜む構造的な問題が浮かび上がってくるため、職場改善にもつながるのです。

 

3つ目は、管理職の負担軽減です。部下のメンタルヘルスの問題を一人で抱え込みがちな管理職にとって、「専門家に任せられる窓口がある」ということ自体が、大きな安心感をもたらします。


4つ目は、従業員エンゲージメントの向上です。「会社が相談できる場所をつくってくれている」——この安心感が、組織への信頼感を育てていきます。 

 

利用率を高める、3つの工夫

「せっかく窓口を設けたのに、従業員がなかなか使ってくれない」——多くの人事担当者の方々のお悩みです。

カウンセリングは日本でも浸透してきましたが、それでも抵抗感を持つ方はまだ少なくありません。「社内のカウンセリングを使ったら、話した内容が上司に伝わるのではないか」という不安から、利用をためらうケースもよく見られます。利用率を高めるためには、いくつかのポイントがあります。

 

【1】守秘義務を、繰り返し伝える

まず大前提として、「相談内容は人事部を含め、社外にも社内にも漏れることはない」という事実を、あらゆる機会に繰り返しアナウンスすることが欠かせません。一度伝えただけでは、安心感は定着しないのです。

 

【2】「カウンセリング」以外の名称を検討する

実は、名称も非常に重要です。「カウンセリング」という言葉に、今なおネガティブな印象を抱く方は少なくありません。本来、カウンセリングは不調気味の方だけのものではなく、健康な方がより健やかに働けるようサポートする場でもあるのですが、そのことがまだ十分には知られていないのです。


私が過去にカウンセリング立ち上げに携わったある企業では、「リラックス・チャットルーム」という名前をつけました(守秘義務のため、実際とは近い名称に変えています)。人事部の方による前向きなアナウンスも功を奏し、開設直後から予約が取れないほどの人気窓口になりました。名称ひとつで、利用へのハードルは驚くほど下がります。

 

【3】「体験カウンセリング」の機会を設ける

自ら進んでカウンセリングを受ける方は、日本ではまだ少数派です。そこでおすすめしたいのが、新入社員や新任管理職に順番に受けていただく「体験カウンセリング」です。一度受けていただくと、「気軽に使っていい場所なのだ」と実感していただけます。すると、いざというときに迷わず「カウンセリングを受けよう」と思ってもらえます。

 

職場カウンセリングの導入は、従業員を守るだけでなく、組織全体の健康度を底上げします。まずは「全員面談」から試していただくのも、おすすめのスタート方法です。