人とのコミュニケーションにおいて、「話すこと」と同じくらい、いや、それ以上に重要なのが「聴くこと」です。
しかし、多くの人は、傾聴とは単に相手の話を黙って聞いていれば良いと誤解しています。
真の傾聴において最も大切なのは、「聴く姿勢」なのです。
聴く姿勢とは、相手に対して示す非言語的なメッセージのことを指します。
うなずき、あいづち、そして表情といった「見た目」の要素は、言葉以上に強力な力を持っています。
これらがしっかりと整えられていると、相手は深い安心感を覚え、心を開いて話してくれるようになります。
逆に、これらが不十分だと、どんなに心の中で真剣に聞いているつもりでも、相手には伝わりません。
例えば、相手が真剣な話をしているのに、聞き手が無表情で腕組みをしていたらどうでしょうか。
たとえ一言も発していなくても、相手は「この人は本当に聞いてくれているのだろうか」と不安になってしまいます。
一方で、適切なタイミングでうなずき、相手の感情に共感するような表情を見せ、「そうですね」「なるほど」といった自然なあいづちを打つことで、相手は「この人なら安心して話せる」と感じるのです。
この見た目の要素は、信頼関係構築の基盤となります。
人は、自分の話を真剣に聞いてくれていると感じた時に初めて、より深い話や本音を打ち明けようと思うものです。
表面的な会話から、心の奥底にある想いや悩みを共有してもらうためには、まず相手に「この人は信頼できる」と思ってもらう必要があります。
しかし、演技をしてはいけません。
形だけを真似しても、相手には不自然さが伝わってしまいます。
大切なのは、相手への真摯な関心と、その人の話を大切に思う気持ちです。
その気持ちが自然とうなずきや表情に現れ、相手に安心感を与えるのです。
傾聴の技術を身につけようとする時、多くの人は「何を質問すればいいか」「どんな言葉をかければいいか」といった言語的な部分に注目しがちです。
しかし、それよりもまず重要なのは、この非言語的な「聴く姿勢」を身につけることです。
だからこそ、私は傾聴を教える際には、まず最初にこの聴く姿勢を徹底的に学んでもらいます。
相手に安心感を与える姿勢ができて初めて、真の傾聴の扉が開かれるのです。