最近の職場では、さまざまな経営理論やマネジメント手法が話題になっています。
「心理的安全性」「エンゲージメント向上」「ダイバーシティ&インクルージョン」など、
次々と新しい概念が登場し、多くの企業がそれらを取り入れようと奮闘しています。
しかし、私はこうした状況を見ていて、ひとつの疑問を感じています。
それは「みんな、難しく考えすぎているのではないか」ということです。
たとえば「心理的安全性」という言葉を考えてみてください。
この概念が注目されると、
多くの経営者や管理職が「心理的安全性を高めるにはどうすればいいか」と真剣に悩み、
研修を実施し、チェックリストを作成し、施策を立案します。
まるで何か特別で高度な技術が必要であるかのように。
でも、ちょっと待ってください。
心理的安全性とは、要するに「自由に意見が言える職場」ということです。
メンバーが萎縮せず、失敗を恐れず、率直に話せる環境。
それって、本来は当たり前のことではないでしょうか。
●当たり前のことを、当たり前に
考えてみれば、職場改善の本質はとてもシンプルです。
人を大切にすること。これに尽きます。
部下の話を聞く。
相手の意見を尊重する。
失敗を責めるのではなく、そこから学ぶ機会にする。
一人ひとりの個性や強みを認める。
困っている人がいたら手を差し伸べる。
感謝の気持ちを伝える。
これらはすべて、特別な知識やスキルを必要としない、人として当たり前のことです。
幼い頃から、私たちは「人には優しくしなさい」「相手の立場になって考えなさい」と教えられてきたはずです。
それを、職場でも実践すればいいだけなのです。
ところが現実には、多くの職場でこのシンプルな原則が守られていません。
部下の話を聞かない上司。
意見を言えば否定される風土。
失敗すれば厳しく叱責される文化。
成果だけが評価され、プロセスや努力は無視される環境。
なぜこうなってしまうのでしょうか。
それは、私たちが「シンプルなこと」を軽視し、「複雑なこと」を重視する傾向があるからではないでしょうか。
横文字の経営理論や最新のフレームワークには飛びつくのに、「人を大切にする」という基本中の基本を忘れてしまう。
あるいは、分かっていても、日々の忙しさの中で後回しにしてしまう。
●愚直に、継続的に
職場改善に必要なのは、特別な施策ではありません。
シンプルな原則を、愚直に守り続けることです。
毎朝、部下に「おはよう」と声をかける。
会議では全員の意見を聞く機会を作る。
良い仕事をした人には「ありがとう」「助かった」と伝える。
ミスが起きたときは、責任追及よりも原因分析と再発防止に焦点を当てる。
忙しくても、相談に来た部下の話を聞く時間を作る。
こうした小さな積み重ねが、職場の雰囲気を変えていきます。
それは派手な施策ではありませんし、すぐに数値で成果が見えるものでもありません。
でも、確実に職場は良くなっていきます。
「心理的安全性を高める特別なプログラム」を導入しなくても、
リーダーが日々、部下の意見を否定せずに聞き、建設的なフィードバックを与え続ければ、
自然と心理的安全性は生まれます。
「エンゲージメント向上施策」を企画しなくても、
一人ひとりを尊重し、成長を支援し、貢献を認め続ければ、
メンバーは自然と組織にコミットするようになります。
●今日、何人の話を聴きましたか?
経営者や管理職の皆さんに問いたいことがあります。
今日、あなたは何人の部下に声をかけましたか。
何人の部下の話を、最後まで聴きましたか。
何人の部下に、感謝の言葉を伝えましたか。
もし答えられないのであれば、
それは新しい施策を考える前に、自分自身の行動を振り返る必要があるということかもしれません。
職場改善は、トップダウンで始まります。
リーダーが変われば、組織は変わります。
どんなに立派な理念や制度を掲げても、
リーダー自身が人を大切にしていなければ、それは絵に描いた餅に過ぎません。
逆に言えば、リーダーが本気で人を大切にし、
それを行動で示せば、制度や施策がなくても職場は良くなっていくのです。
●シンプルに立ち返る勇気
「人を大切にする」というシンプルな原則に立ち返ること。
これには、ある意味で勇気が必要かもしれません。
なぜなら、それはとても地味で、目立たない取り組みだからです。
社内外に向けて「当社はこんな先進的な取り組みをしています」とアピールできるものではありません。
すぐに数値で効果を示せるものでもありません。
でも、本当に大切なものは、往々にして地味でシンプルなものです。
職場改善もまた然りです。
リーダーの皆さん、一度立ち止まって、自分自身を振り返ってみてください。
複雑な施策を追い求める前に、シンプルな原則を守れているか。
最新の理論を学ぶ前に、基本的な人としての振る舞いができているか。
そして、もし足りないものがあるなら、
今日から、今この瞬間から、それを実践してみてください。
部下に声をかける。話を聞く。感謝を伝える。それだけで、あなたの職場は変わり始めます。
職場改善は、シンプル・イズ・ベストです。
難しく考えず、当たり前のことを、当たり前にやる。
そして、それを愚直に続ける。
それこそが、最も確実で、最も効果的な職場改善の方法なのです。